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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)211号 判決 1997年4月24日

宮城県仙台市青葉区八幡2丁目3番6号

原告

渋谷彰一

同訴訟代理人弁理士

秋山高

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

蓑輪安夫

三浦悟

幸長保次郎

小池隆

主文

特許庁が平成5年審判第10525号事件について平成7年6月1日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和63年2月12日、名称を「路面掘削装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭63年特許願第30608号)をしたが、平成5年3月22日拒絶査定を受けたので、同年4月21日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成5年審判第10525号事件として審理した結果、平成7年6月1日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年8月2日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

バケットを有する建設機械の予備油圧駆動源とバケットの底部に取り付けた回転ブレード装置との間に油圧回路を形成し、回転ブレード装置は少なくとも油圧モータとバケット幅より大きい間隔でブレードを両端に取り付けられた回転軸と動力伝達部とより構成され、回転ブレード装置はバケットの底部にねじ等で固定され、回転ブレード装置を取り付け又は取り外すようにした路面掘削装置。(別紙参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)<1>  実公昭61-8085号公報(以下「引用例1」という。)には、次の記載があることが認められる。

A1. 「バケット本体の後方に固着した軸受により、バケット本体に対し回転自在なカッタを取付けた軸をバケット本体の作動方向とほぼ直角に保持し、かつカッタの外周の一部をバケット本体の底面より突出させたことを特徴とするバケット」(実用新案登録請求の範囲)

A2. 「従来、油圧ショベルなどの作業機によって舗装道路の表面をはがす作業を行う場合、はいだ舗装道路面の大きさが、バケットの寸法よりも大きな板状になることが多い。このような場合、従来は人力または上記バケットにより、はがした板状舗装面に衝撃を加える等してバケットに収容可能な大きさにしてダンプカー等への積込作業を行っていたため、作業能率が極めて悪かった。」(1頁左欄10-17行)

A3. 「この考案は、上記のような問題点を解決することを目的としてなされた」(1頁26-2頁1行)

A4. 「なお、カッタ4の数は、図示の二個に限るものではなく、かつ、その外周は円形でも花弁形でも同様の効果を奏する。」(1頁右欄15-17行)

<2>  実願昭56-122201号のマイクロフィルム(実開昭58-29608号)(以下引用例2という。)には、次の記載があることが認められる。

B1. 「<1> 対地作業器への着脱自在な取付部(5)を有するアタッチメント本体(1)に回転刃体(3)とそれの駆動用油圧モータ(4)とが設けられ、前記油圧モータ(4)には油圧継手(8)、(8)が接続されているアスファルトカッター。」(実角新案登録請求の範囲の<1>)

B2. 「アタッチメント本体をバケット等対地作業器に取付ける作業と、油圧モータの継手を、ローダ側の予備継手やバケット等対地作業器の駆動シリンダへの油圧回路において外した継手に対して接続する作業だけで(これらは何れも比較的簡単な作業である)実働態勢になるため取扱い上も甚だ便利である。」(4頁3-9行)

B3. 「(1)はアタッチメント本体で、周部(2)鋸刃(2)群を有する回転刃体(3)を軸支し、ギア式減速機を内装し、かつ油圧モータ(アキシヤルプランジャモータ)(4)を装着している。本体(1)は取付用ボルト孔を形成した板状の取付部(5)を有し、取付部(5)と反対側の面(6)が刃体の軸心を中心とする円弧面になっている。」(4頁11-17行)

B4. 「アキシヤルプランジャモータに代えてギアモータを採用するもよいが、前者の方が騒音少なく強力であるから好ましい。」(5頁15-17行)

(3)  以下に本願発明と引用例2の考案とを比較し、それらの相違点について判断する。

<1> バケットを有する建設機械の予備油圧駆動源とバケットの底部に取り付けた回転ブレード装置との間に油圧回路を形成する点(相違点<1>)

(a) 上記B2.によれば、引用例2の考案では、アタッチメント内に設けた駆動用油圧モータは、その継手に「ローダ側の予備継手やバケット等対地作業器の駆動シリンダへの油圧回路」においてはずした継手を「切り換え接続して」駆動していることが認められるから、引用例2の考案でも、駆動用油圧モータとローダ側からの油圧回路との間に油圧回路を形成していることが認められる。

これに対して、本願発明では、「バケットを有する建設機械の予備油圧駆動源」と「回転ブレード装置」との間に油圧回路を「形成する」ことが認められる。

そうすると、上記<1>の点に関しては、本願発明は、建設機械の「予備」油圧駆動源によって、形成した油圧回路を介して回転ブレードを駆動する点で、引用例2の考案と相違していることが認められる。

(b) しかしながら、バケットを有する建設機械が予備油圧駆動源を有しているならば、その予備油圧駆動源が駆動源であることに変わりはないのであるから、その予備油圧駆動源と回転ブレードとの間に油圧回路を形成して回転ブレードを駆動することは必要に応じてできる程度の工夫に過ぎないもの認められる。

<2> 回転ブレード装置は少なくとも油圧モータとバケット幅より大きい間隔でブレード両端に取り付けられた回転軸と動力伝達部とより構成されている点(相違点<2>)

(a) 上記B3.によれば、引用例2の考案では、アタッチメント本体に回転刃体を軸支し、ギア式減速機を内装し、かつ油圧モータを装着しているが、引用例2の第2図に示されている、引用例2の考案のアスファルトカッターの具体例によれば、回転刃体は1個だけであることが認められる。

そうすると、本願発明は、回転ブレードをバケット幅より大きい間隔で回転軸の両端に取り付けている点で、引用例2の考案と異なっていることが認められる。

(b) しかしながら、回転ブレードを回転軸の端部に取り付けることはごく普通のことであると認められる。また、回転ブレードを回転軸の両端に取り付けて、取り付ける回転ブレードの数を複数にすることも、対路面作業の性質に応じて適当に選択できると認められるし、また、このことは、上記A4.によれば、駆動源を有していないとはいえ、本願発明の回転ブレードと同じく、対路面作業器である引用例1の考案の回転自在なカッタの数が二つに限られていないことからも明らかである。

<3> 回転ブレード装置はバケットの底部にねじ等で固定され、回転ブレード装置を取り付け又は取り外すようにした点(相違点<3>)

上記B3.によれば、アタッチメント本体は取付用ボルト孔を形成した板状の取付部を介してバケットの底部にボルトによって取り付けることが認められる。

これに対して、本願発明では、少なくとも油圧モータ、回転軸、動力伝達部とから構成する回転ブレード装置をバケットの底部にねじ等で固定するのであるから、本願発明でも、例えば本願図面の第2図に示されているような回転軸を軸受で軸支することが必須であるとは認められない。また、本願発明の回転ブレード装置は取り付け又は取り外すことができるが、これはボルトで固定する場合一般に当然のことであると認められる。

そうすると、この点では、本願発明は引用例2の考案と異なっているものとは認められない。

<4> そして、本願発明は、上記<1>及び<2>に指摘した相違によって、格別の効果を奏したものとは認められない。

(4)  そうすると、本願発明は、引用例2及び引用例1に記載されている発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

したがって、本願発明は、特許法29条2項の規定によって、特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)のうち、<1>(a)は認め(ただし、原告は、相違点は他にもあると主張する。)、<1>(b)は争う。<2>(a)は認め、<2>(b)は争う。<3>は認め、<4>は争う。

同(4)は争う。

審決は、回転ブレード装置の取付位置についての相違点を看過し、相違点<1>、<2>についての判断を誤った結果、進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(相違点の看過)

審決は、本願発明が回転ブレード装置をバケットの「底部」に取り付けた点において、引用例2の考案と相違するにもかかわらず、この相違点を看過したものである。

本願発明においては、回転ブレード装置をバケットの「底部」に取り付けている。本願発明では、バケットの爪から最も遠い位置としての底部に回転ブレード装置を設けた結果、バケットで掘削する際にブレード装置が邪魔になってバケットが十分な深さに進入することが困難になることがなく、ブレードの刃体の損傷のおそれも回避可能となる。

仮に、「底部」を通常の意味に解したとしても、バケットの上部に開口部があり、その反対側が通常は底部とされるのであって、原告主張の上記技術的意義と同義に解することができる。

「底部」に取り付ける点は、引用例2はもちろん、乙第1ないし第3号証及び引用例1にも記載がない。

(2)  取消事由2(相違点<1>についての判断の誤り)

審決は、「バケットを有する建設機械が予備油圧駆動源を有しているならば、その予備油圧駆動源が駆動源であることに変わりはないのであるから、その予備油圧駆動源と回転ブレードとの間に油圧回路を形成して回転ブレードを駆動することは必要に応じてできる程度の工夫に過ぎないもの認められる」と判断するが、誤りである。

<1> 本願発明にいう予備油圧駆動源とは、予備として使用される油圧駆動源の意味である。本願発明においては、予備油圧駆動源は回転ブレード装置専用のものであり、回転ブレード装置に最適な回転速度が得られる油圧回路を実現し得るものである。これに対し、引用例2の油圧駆動源は、本来のバケット駆動用アクチュエータ(油圧シリンダ)のための配管回路と一体のものであり、回転刃体(ブレード)専用のモータに適したものではない。

また、本願発明の油圧回路は、回転ブレード装置専用のものとして一旦設置した後は他の既存の油圧シリンダには使用されないものである。これに対し、引用例2のものでは、切り換え使用されるものであるから、その都度2つのアクチュエータに対して切り換え接続することを強いられ、作業効率は落ち、また、繰り返し接続、解除による継手ねじ部分の磨耗の問題が生ずる。

よって、予備油圧駆動源と本来の油圧駆動源とが転用可能であることを前提とする審決の判断は、予備駆動源の技術的意義を誤認した誤ったものである。

<2> 被告は、建設機械の油圧回路において駆動源として主作業用の油圧駆動源に加えて副作業用の予備駆動源を設けることは建設機械の油圧回路技術における一般的な技術常識であると主張するが、この主張は、副作業用の油圧駆動源と予備油圧駆動源との技術的意義を混同するものである。すなわち、乙第1号証には、主作業用としてのバケット駆動用油圧駆動源とアタッチメントのための副作業用としてのアタッチメント駆動用油圧駆動源とは共に当初より設置された構造であることが記載されているが、このような当初より副作業用として使用することを前提として組み込まれた油圧駆動源は予備油圧駆動源とは別の技術的意義を有するものである。

乙第3号証にも、バケット駆動用油圧駆動源とアタッチメントのためのアタッチメント駆動用油圧駆動源とは共に当初より設置された構造であることが記載されているから、同様に、予備油圧駆動源とは別の技術的意義を有するものである。

乙第2号証には、油圧ショベルの油圧回路中に空き方向切換弁30があり、当面は使用しない予備切換弁であることが記載されている。そして、ブレーカー等の小流量の油圧で駆動される他のアタッチメントが接続される旨が記載されている。しかし、乙第2号証は、昭和60年10月8日公開であり、本願発明の出願日(昭和63年2月12日)よりわずか2年余り前のものであるから、乙2号証のみから、予備油圧駆動源を設けることが建設機械の油圧回路技術における一般的な技術水準又は技術常識であるとすることはできない。また、乙第2号証の「空き方向切換弁」は、油圧回路に接続されている以上、建設機械油圧回路において予備油圧駆動源を設けることは技術常識であるということはできない。

被告は、乙第1ないし第3号証の記載から各アタッチメントが取り付けられていない状態を認定するが、そのような状態は乙第1ないし第3号証に直接的な記載はなく、その根拠に欠けるものである。

(3)  取消事由3(相違点<2>についての判断の誤り)

審決は、「回転ブレードを回転軸の端部に取り付けることはごく普通のことであると認められる。また、回転ブレードを回転軸の両端に取り付けて、取り付ける回転ブレードの数を複数にすることも、対路面作業の性質に応じて適当に選択できると認められるし、また、このことは、上記A4.によれば、駆動源を有していないとはいえ、本願発明の回転ブレードと同じく、対路面作業器である引用例1の考案の回転自在なカッタの数が二つに限られていないことからも明らかである」と判断するが、判断の遺脱及び誤りがある。

<1> 被告は、一般的な作業工具において駆動軸の両端に作業用部材を設けることは周知の技術であると主張し、乙第4ないし第6号証を提出するが、乙第4ないし第6号証には、一般的な作業工具において駆動軸の両端に作業用部材を設けることが明確に記載されているわけではなく、それぞれの機械に特有の技術的課題を達成するための技術的事項が記載されているにすぎない。

<2>(a) 本願発明においては、バケット幅より大きい2本の溝の存在によって、バケットは直ちに2本の溝の中に食い込ませることができ、路面を直ちに掘削開始し得るものである。

しかし、審決は、回転ブレードを「バケット幅より大きい間隔で」取り付けられる点については、何ら判断をしていない。

(b) 被告は、舗装面に2条の溝を刻む路面の掘削において、バケット幅より大きい幅で舗装面に溝を刻むものは、通常この種の作業においては広く行われていることであると主張し、乙第7、第8号証を提出する。

しかしながら、乙第7号証には、除去部分の両側に切れ目を入れる旨の記載はあるものの、その切れ目は直ちにバケット幅より大きい幅、かつ、2条の溝を回転ブレード装置により一挙に実現するものであることを示す記載はない。

乙第8号証には、バックホーで舗装ブロックをはぎ取る際、コンクリートカッターで2条の溝を形成する旨の記載はあるものの、その幅が直ちにバケットの幅より大きい幅であるかどうかは、同号証の記載からは判明しないし、2条の溝の形成方法も、従来周知のコンクリートカッターを用いて1条ずつ2回に分けて形成されているにすぎない。

そもそも本願発明はブレードの間隔をバケットの幅より大きい幅とする路面掘削装置という機械としてのカテゴリであるのに対し、乙第7、第8号証に記載されたものは、路面切断工法にすぎない。このようにカテゴリに相違がある以上、技術的思想として相違するものといわざるを得ない。

<3> 被告は、ブレードの間隔をバケット幅より大きい間隔とする構成による作用効果は引用例1と同様のものであると主張するが、そもそも引用例1に記載のカッタ4はその幅がバケットより狭いものであり、乙第7、第8号証により得られる作用効果を援用しないで引用例1の作用効果を援用するのは論理の矛盾である。また、引用例1のカッタ4は、それ自体回転駆動されるものではなく、その溝は極めて浅いものであるから、その騒音等は小さいものである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認めるが、同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

「底部」の意義につき、本願発明の特許請求の範囲には、バケットの爪が設けられた位置すなわち開口部とは正反対位置としての底部分を意味するとの限定はなく、発明の詳細な説明にも、その旨定義する記載はない。また、原告主張の「底部」の効果も、本願明細書に記載されていない。

したがって、「底部」とは、通常の意味に解すべきであり、そうすると、引用例1の「カッタ4」、引用例2の「回転刃体3」もバケットの底部に取り付けられたものというべきである。

(2)  取消事由2について

<1> 引用例2には、予備油圧駆動源を設けることについて具体的に明記されていないが、建設機械の油圧回路において、駆動源として主作業用の油圧駆動源に加えて副作業用の予備油圧駆動源を設けることは、建設機械の油圧回路技術における一般的な技術常識(乙第1ないし第3号証)であり、また、引用例2には、「油圧モータの継手を、ローダ側の予備継手やバケット等対地作業器の駆動シリンダヘの油圧回路において外した継手に対して接続する作業だけで・・・実働態勢になる」(甲第5号証4頁4行ないし8行)ことが記載されており、油圧モータの継手を、ローダ側の予備継手に対して接続する場合には、回転刃体の駆動用油圧モータとローダに装着の油圧ポンプとの間に油圧回路を形成しているものであることからすれば、引用例2の考案に建設機械の油圧回路技術における一般的な技術常識を適用し、バケットを有する建設機械に副作業用の予備油圧駆動源を設け、予備油圧駆動源とバケットの底部に取り付けた回転ブレード装置との間に油圧回路を形成するようなことは、当業者が容易になし得る程度の設計的事項である。

<2> 原告は、引用例2にいう油圧回路はバケット駆動用の油圧シリンダのためのものであってこれを回転ブレード装置に転用しても回転ブレード装置の性能を最大限活用し得ないと主張するが、前述したように、引用例2の考案は回転刃体の駆動用油圧モータとローダに装着の油圧ポンプとの間に油圧回路を形成しているものであるから、原告の主張は根拠のないものである。

また、原告は、副作業用の油圧駆動源と予備油圧駆動源との技術的意義の違いを主張するが、乙第1号証の「各種アタッチメント26」、乙第3号証の「アタッチメント22」は、常時本体に取り付けられているものではなく、アタッチメントによる作業が行われる場合に取り付けられて、油圧駆動源と接続されるものであり、上記「各種アタッチメント26」、「アタッチメント22」が取り付けられていない状態においては、上記油圧駆動源は予備油圧駆動源である。また、乙第2号証の「空き方向切換弁30」は「第1の油圧ポンプ22」及び「第3の油圧ポンプ24」と接続されており、これら「空き方向切換弁30」、「第1の油圧ポンプ22」、「第3の油圧ポンプ24」も「ブレーカ50」のごときアタッチメントが接続される予備油圧駆動源を構成するものである。したがって、予備油圧駆動源を設けることは建設機械の油圧回路技術における一般的な技術常識である。そして、本願発明中の予備油圧駆動源は、使用されることを意図して設けられるものであって、乙第1号証の「各種アタッチメント26」、乙第2号証の「ブレーカ50」、乙第3号証の「アタッチメント22」が接続される油圧駆動源と何ら技術的意義が異なるものではない。また、本願発明の「回転ブレード装置」も「バケットの底部にねじ等で固定され、回転ブレード装置を取り付け又は取り外すようにした」アタッチメントであって、「予備油圧駆動源」と「回転ブレード装置」との間に油圧回路を形成する技術思想は、乙第1号証の「各種アタッチメント26」、乙第2号証の「ブレーカ50」、乙第3号証の「アタッチメント22」を油圧駆動源と接続する技術思想との間で、アタッチメントと予備油圧駆動源との間に油圧回路を形成する点で何ら技術的意義が異なるものはない。

(3)  取消事由3について

<1> 引用例2には、バケットの底部に取り付けるアスファルトカッターにおいて、回転刃体を軸の端部に軸支することが記載されている。

また、引用例1には、舗装面に2条の溝を刻むためにバケット本体の底部にカッタを2個設けることが記載されている。

そして、一般的な作業工具において駆動軸の両端に作業用部材を設けることは周知の技術である(乙第4ないし第6号証)。

<2> また、舗装面に2条の溝を刻む路面の掘削において、バケット幅より大きい幅で舗装面に溝を刻むものは、バケット幅より小さい幅で舗装面に溝を刻むものと比較して、路面の掘削作業における作業効率が向上することは明らかなことであり、通常この種の作業においては広く行われていることである(乙第7、第8号証)。

すなわち、乙第7号証には、「予め舗装の除去部分の両側線にダイヤモンドカッターで切れ目を入れ、その内側をドロップハンマー又はブレーカーで打撃して舗装盤を破砕し、然る後バックホウショベルのバケットによって破砕された舗装盤(セメントコンクリート又はアスファルトコンクリート)およびその下の路盤を掘り起して除去する方法が通常行われている」(1頁右下欄1行ないし8行)と記載されており、この記載は、2条の溝を刻み、2条の溝の間の舗装盤及びその下の路盤をバケットにより除去することを示しており、また、このことは、2条の溝の間にバケットが挿し込まれることから、2条の溝がバケットの幅より大きい幅で刻まれていることを示していることは明らかである。

乙第8号証に、コンクリート舗装面にバケットの幅より大きい幅に2条に溝を刻み、2条の溝の間の舗装ブロックをバケットにより除去することが記載されていることは、同号証の図面第1ないし第4図の記載から明らかである。

<3> したがって、引用例2の考案に引用例1の考案と周知の技術を適用し、バケット幅より大きい間隔でブレードを回転軸の両端に取り付けるようなことは、当業者が容易になし得る程度の設計的事項であり、審決もこの趣旨の判断をしたものであるから、審決には、判断の遺脱も、判断の誤りもない。

<4> 2条の溝を同時に一定幅で刻むことによる、作業時間の短縮、騒音発生時間の短縮等の作用効果は、引用例1の考案も備える作用効果であり、本願発明の作用効果は、引用例1、2に記載された発明及び上記周知の技術、並びに上記通常広く行われている作業内容から予測し得る程度のものであり、格別のものとはいえない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項の認定)及び(3)<3>(相違点<3>についての判断)は、当事者間に争いがない。

2  原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1(底部の点)について

<1>  審決の理由の要点(3)<1>(a)(油圧駆動源についての相違点の認定)は、下部<2>の回転ブレード装置の取付位置の点を除き、当事者間に争いがない。

<2>  甲第3号証によれば、本願明細書には、回転ブレード装置はバケットの底部にねじ等で固定して構成したことにより、「ブレードによる1回の溝切りとその後直ちにバケットによる剥離排除の交互の作業を容易に繰り返して行い得る」(2頁12行ないし14行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、回転ブレード装置は、溝切りの後回転ブレード装置を装着したままでバケットによる剥離排除を行うことができるように、剥離排除の障害とならない位置としての「底部」に設けたものと認められる。原告は、本願発明においては、回転ブレード装置をバケットの爪から最も遠い位置としてのバケットの「底部」に取り付けているため、バケットで掘削する際にブレード装置が邪魔になったり、ブレードの刃体が損傷することがない旨主張するが、本願発明の要旨(特許請求の範囲)には、「底部」がバケットの爪から最も遠い位置を意味するとの記載はなく、発明の詳細な説明にも、「底部」をそのような意味にまで限定して解釈すべき記載は見いだせないから、この点の原告の主張は採用できない。

そして、甲第5号証によれば、引用例2には、「バックホウ(10)の掘削バケット(11)の背面に対し取付部(5)を取付け」(5頁2行、3行)と記載されていることが認められ、この記載及び同号証第3図によれば、引用例2における回転刃体は、バケットの背面に設けられており、やはり剥離排除の障害とならない位置を「背面」と表現したことが認められる。

そうすると、本願発明の「底部」も、引用例2の「背面」も、技術的意義において変わりはないと認められる。

したがって、原告主張の取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2 (油圧駆動源の点)について

<1>  乙第1号証によれば、乙第1号証(実願昭54-159184号(実開昭56-76701号)のマイクロフィルム)には、「本考案は油圧ブレーカ、コンクリート破砕機、油圧クラムシエルなどの各種アタッチメントを油圧式掘削積込機に装着する場合のアタッチメント用油圧回路装置に関する」(1頁20行ないし2頁3行)、「その目的とするところは各種アタッチメントとバケット、ブームなどとの同時操作ができるばかりかブレーカ、コンクリート破砕機、油圧クラムシエルなどいずれのアタッチメントも装着可能になるし、アタッチメント作業をしない場合、油圧式掘削積込作業を行なうことができ、しかも配管時にバルブアッセンブリの脱着がなく短時間に配管作業が可能になる」(3頁9行ないし16行)と記載されていることが認められ、さらに、同号証の3頁18行ないし6頁12行の記載及び第3図によれば、第1バルブアッセンブリの各操作弁4、6、8のポンプポートをポンプ9の吐出側に接続し、第2バルブアッセンブリの各操作弁11、13、15のポンプポートをポンプ16の吐出側に接続してあり、アタッチメント作業時に、ポンプ9に接続した各種アタッチメント用操作弁22を作動させることによりアタッチメント26を作動させ、同時にポンプ16に接続した第2のバルブアッセンブリの各操作弁11、13、15を作動させることにより、例えば、ブームシリンダ12、バケットシリンダ14を作動させ、各種アタッチメント26とバケット、ブームなどとの同時操作ができることが認められる。

乙第2号証によれば、乙第2号証(特開昭60-199127号公報)には、「本発明は、必要に応じて特殊なアタッチメントを着脱して使用する、油圧ショベルなどの土木・建設機械の油圧回路に関するものである。」(1頁右下欄6行ないし8行)、「第5図に示す如く、空き方向切換弁30の出力回路49に流量制限を要するアタッチメントとしてブレーカ50が接続され、空き方向切換弁30に操作信号Gを送るパイロット管路が追設され、空き方向切換弁30を含む第1の多連弁26に圧油を供給する2つの油圧ポンプ22および24のうち、第3の油圧ポンプ24に吐出量制御信号Hを送るパイロット管路と、この第3の油圧ポンプ24を除く他の油圧ポンプ22、23、25に吐出量制御信号Ⅰを送るパイロット管路とがそれぞれ接続される。」(3頁左下欄6行ないし16行)と記載されていることが認められ、右記載及び同号証第5図によれば、空き方向切換弁30及び圧油を供給する油圧ポンプ22、24は、ブームシリンダ9、アームシリンダ10、バケットシリンダ11を駆動する油圧駆動源とは別個のものとしてアタッチメントの作業用油圧駆動源として使用されているものと認められる。

乙第3号証によれば、乙第3号証(特開昭56-159438号公報)には、「本発明は油圧ショベル等の建設機械の油圧回路、特に破砕機等のアタッチメントを有する建設機械の油圧回路に関する」(1頁右下欄15行ないし17行)、「本発明は・・・2台の油圧ポンプを有し、一方の油圧ポンプで旋回モータ、一方の走行モータおよびアームシリンダを駆動し、他方の油圧ポンプでバケットシリンダ、他方の走行モータおよびブームシリンダを駆動する建設機械の油圧回路において、上記の各油圧モータや油圧シリンダ等のアクチュエータを制御する切換弁に加えてアタッチメント操作用切換弁をアタッチメントと同数設け、この切換弁に両油圧ポンプからの圧油を同時に、または単独に供給可能に構成した」(2頁右上欄8行ないし19行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、乙第3号証ものは、破砕機等のアタッチメントを操作するため建設機械の各アクチュエータを制御する切換弁に加えアタッチメント用切換弁を設けており、アタッチメントを使用しない状態における油圧ポンプ及びアタッチメント用切換弁は、予備油圧駆動源に相当すると認められる。

以上のとおり、乙第1ない第3号証には、いずれも駆動源として主作業用の油圧駆動源に加えて副作業(アタッチメント操作)用の油圧駆動源を設けることが開示されており、建設機械の油圧回路において、駆動源として主作業用の油圧駆動源に加えて副作業用としての予備油圧駆動源を設けることは、建設機械の油圧回路技術における技術常識であると認められる。

原告は、乙第1ないし第3号証の記載から各アタッチメントが取り付けられていない状態を認定することは根拠に欠ける旨主張するが、アタッチメントとは着脱可能なものであると認められるから、乙第1ないし第3号証の記載から、アタッチメントが取り付けられていない状態を認定することに何ら不自然な点はなく、この点の原告の主張は採用できない。

また、乙第2号証も、その公開時期及び技術内容等に照らすと、上記技術常識の認定に使用できるものであり、これに反する原告の主張は採用できない。

<2>  「引用例2の考案では、アタッチメント内に設けた駆動用油圧モータは、その継手に「ローダ側の予備継手やバケット等対地作業器の駆動シリンダヘの油圧回路」においてはずした継手を「切り換え接続して」駆動していることが認められる」ことは、前記(1)<1>に説示のとおりである。そうすると、引用例2の考案においては、油圧モータの継手をローダ側の予備継手に対して接続する場合には、回転刃体の駆動用モータとローダに装着の油圧ポンプとの間に油圧回路を形成するものであるところ、上記<1>に説示した建設機械の油圧回路技術における技術常識を考慮すれば、引用例2の考案に上記技術常識を適用し、バケットを有する建設機械に副作業用の予備油圧駆動源を設け、予備油圧駆動源とバケットの底部に取り付けた回転ブレード装置との間に油圧回路を形成するようなことは当業者が容易になし得る程度の設計的事項にすぎないと認められ、これと同旨の審決の判断に誤りはないと認められる。

<3>  原告は、乙第1号証等のように当初より副作業として使用を前提として組み込まれた油圧駆動源は予備油圧駆動源とは別の技術的意義を有すると主張する。しかしながら、本願発明における回転ブレード装置の駆動は路面掘削装置の作業形態から見れば副作業に当たり、本願発明における予備油圧駆動源は回転ブレード装置を駆動するためのものであり、当初より回転ブレード装置の駆動用として組み込まれたものと考えることができるところ、これを乙第1号証等のように当初より副作業として使用を前提として組み込まれた油圧駆動源は予備油圧駆動源とは別の技術的意義を有すると解することは到底できないから、この点の原告の主張は採用できない。

また、原告は、本願発明の予備油圧駆動源は回転ブレード装置専用のものであるのに対し、引用例2の油圧駆動源は回転刃体専用のモータに適したものではないとか、本願発明の油圧回路は回転ブレード装置専用のものであるのに対し、引用例2のものでは切り換え使用されるものである等と主張するが、上記説示のとおり、建設機械の油圧回路において、駆動源として主作業用の油圧駆動源に加えて副作業用としての予備油圧駆動源を設けることが技術常識である以上、予備油圧駆動源との間で油圧回路を形成すれば、回転ブレード装置に適した圧力とし、予備油圧駆動源を回転ブレード装置に専用のものとすることは、当然なし得ることであると認められるから、この点の原告の主張は採用できない。

<4>  したがって、原告主張の取消事由2は理由がない。

(3)  取消事由3(回転ブレードの取付幅の点)について

<1>  審決の理由の要点(3)<2>(a)(回転ブレードについての相違点の認定)は、当事者間に争いがない。

<2>  被告は、舗装面に2条の溝を刻む路面の掘削において、バケット幅より大きい幅で舗装面に溝を刻むものは、通常この種の作業においては広く行われていることであると主張し、乙第7、第8号証を提出する。

しかしながら、被告が指摘する乙第7号証中の「予め舗装の除去部分の両側線にダイヤモンドカッターで切れ目を入れ、その内側をドロップハンマー又はブレーカーで打撃して舗装盤を破砕し、然る後バックホウショベルのバケットによって破砕された舗装盤(セメントコンクリート又はアスファルトコンクリート)およびその下の路盤を掘り起して除去する方法が通常行われている」との記載や、乙第8号証の第1ないし第4図の記載によっても、あらかじめ舗装の除去部分にバケットとは直接関係のないカッタで2条に溝を刻み、2条の間の舗装盤あるいはブロック又は路盤をバケットにより除去することが認められるだけであって、その溝の幅がバケットの幅より大きい幅であったとしても、そのことが直ちに回転ブレード装置をバケット幅より大きい間隔とすることに結びつくものと認めることはできず、他に被告の主張を認めるに足りる証拠はないから、仮に、バケットの底部に設けるカッタを2個として、ブレードを回転軸の両端に取り付ける構成とすることが当業者が容易に想到し得ることだとしても、審決の相違点<2>について容易推考である旨の判断は誤りであると認められる。

<3>  そして、本願発明は、回転軸の両端に取り付けた回転ブレード装置がバケット幅より大きな間隔であることにより、「プレードによる1回の溝切りとその後直ちにバケットによる剥離排除の交互の作業を容易に繰り返して行い得る」(甲第3号証2頁12行ないし14行)との引用例1及び2に記載された事項から予測し得ない効果を奏するものと認められる。

したがって、審決の相違点<2>についての判断の誤りは審決の結論に影響するものであるから、原告主張の取消事由3は理由がある。

3  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙

<省略>

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